あわてるなあわてるな
べックがいった。
「きのう公園を歩いていると、向こうから並んでやってきた老婦人と美しい若いレディが、道のくぼみのところで、ほとんど同時にころんでしまった」
「へえ・・・それで、きみはどうした?」332
「ぼくは、むろんすぐにかけつけて、お婆さんの方を抱きおこしてやったさ」
「ウソをつけ!きみが若い女性をさしおいて、お婆さんなんかを・・・」
「まあ終りまできけ。そのとき美しいレディは、こっちを向いて脚をひろげたまま、なかなか起きあがれないでいたんだぜ・・・」
二つの卵
ゴントラン夫妻は、パリの植民地博覧会で、珍しい象の卵を一つ買った。
生まれたらひと財産じゃないかというわけで、夫婦でかわるがわる温めて、カエすことにきめた。
十日も、夫妻がひきこもっているので、怪しんだ隣家のデュラン夫人、「ご病気ですか?」と心配そうにお見舞いに来た。
すると、ゴントラン氏は、
「いやいや、象の卵をカエしているまっ最中なんです」
「まあ、珍しいこと、見せていただけません?」
といいながら、デュラン夫人は、毛布の下からそっと手をすべりこませた。
「まあ、卵が二つですわね!感じますわよ。・・・一頭のほうは、もう、鼻をぴくつかせてますわよ」