海外では教科書がPISAの結果にどのようなインパクトを与えているかの研究が出現している。オランダのユトレヒト大学の研究者チーム(Wilkens,H.J.)がPISAの全体の平均点の違いと参加国の教科書採択制度との関係を分析し,国家の教科書への関与が少ない国の成績が高いという皮肉な結果を報告している(まだ今後の本格的な検証をまたないと本当のことは言えないが)。同研究では我が国の教科書検定・採択制度が教科書の質保証をする,という私の拙著を引用し,国家の関与が質を担保するという前提を置さながらの研究であった。すでにポーランドは国家が教科書の質を保証する方向での改革に乗り出している。中国,シンガポール,韓国,日本といったアジアの国の学力が高いという事実は十分に説明されないままの結論である点は批判的に理解する必要がある。我が国でもPISA型学力調査結果と数学や理科の教科書に関する調査研究が出てきている。たとえば,田中裕人・黒木哲徳「PISA調査からみた算数・数学の教科書の調査研究」福井大学教育実践研究(2007)がある。結論として「PISA型数学リテラシー向上に向けて教科書の構成のあり方やそれに応じた授業の研究の必要がある」(p. 15)と提言している。教科書は学力の違いをもたらす。